新型コロナウイルス感染症拡大やそれに伴う緊急事態宣言の発令により、中小企業や個人店は大きな影響を受けています。この非常事態に雇用を守れるよう、厚生労働省は雇用調整助成金の適用範囲を緩和する特別措置を取りました。
緩和されたとはいえその条件も申請書類もかなり複雑で、本業の忙しさによっては社会保険労務士・弁護士に依頼せざるを得ない場合も多いのですが、法的には事業主が自分で申請することが可能です。
この記事では特別措置の条件と申請手順をまとめましたので、
- 助成金の対象かどうか
- 自分で申請作業できそうかどうか
を判断してください。
外注せざるを得ないという結論になった場合には、信頼できる社労士さんのご紹介も可能です。
厚生労働省による初心者向けマニュアル
まずは自分で公式サイトの情報を読んでみたい、と思われる方は、ごくごく基礎のこちらの資料がおすすめです。
はじめての雇用調整助成金マニュアル.
受給対象となる「休業」の定義とは?
雇用調整助成金は、その名の通り雇用を守るための助成金です。
休業とは、労働者がその事業所において、所定労働日に働く意思と能力があるにもかかわらず、労働することができない状態をいいます。
引用元:雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)
ということなので、
- 有給休暇
- 病気・ケガによる休業(新型コロナウイルス感染症を含む)
- ストライキ
- 感染不安を理由とした出社拒否
などは対象外となりますのでご注意ください。
もちろん、「営業自粛によりお店を閉める」という意味の休業とも異なります。
また今回は特別に、
- 残業と相殺する必要がない
という緩和条件が設けられています。
「休業決定後に突発的理由で休日出勤・出勤日の残業をしていたからといって、休業時間と相殺しなくてもよい」ということです。
詳細条件
残念ながら、1日でも休業させたらすぐ受給対象になるというわけではありません。
労使間の協定の中での休業、対象期間内の休業、所定労働日・所定労働時間内の休業という基本的な決まりのほか、
- 労働基準法第26条の規定(平均6割以上)に違反しない休業手当を支払っていること
- 所定労働延べ日数の1/40(大企業の場合は 1/30 )以上を休業していること
という条件もあります。
後者は条件だけを読むと少しややこしいのですが、以下のように計算します。
<1ヶ月に20日の稼働日で従業員が20人いる場合>
合計日数は20日×20人で400日で、その1/40なので10日以上休業した場合です。
1人が10日休む・10人が1日ずつ休むなど、その内訳は関係ありません。
短時間休業、部署・部門ごとの休業も対象
緊急対策期間中は、事業所全体での全日休業ではない短時間休業(1時間以上)も対象となります。
ガイドラインの条件がわかりやすいので、画像で引用しておきます。
画像出典:雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)
特別措置の雇用調整助成金の対象条件
もはや休業の定義だけでお疲れではないでしょうか。
もう無理だ、と思われた方は、続きを読まずに社労士さんにご相談されることをおすすめします。
もうちょっとがんばってみよう、と思われた方は引き続きお読みください。
特別措置により従来の条件と変わっていますが、以前の条件を知ってもさらに混乱するので、「いまの適用条件」のみご紹介していきます。
緊急対応期間
2020年4月1日~6月30日まで
※9月30日まで延長される方向で調整されています(5月24日現在)
対象地区
全国
不支給条件
適用条件がかなり難しいので、その前に不支給対象になる条件を先に挙げておきましょう。
ここで該当する条件に当てはまると対象外なので、続きを読む必要はありません。
- 雇用関係助成金の不正受給で不支給決定もしくは支給取消しされてから一定期間内である。
(平成31年4月1日以降の申請なら決定日から5年以内、それ以前は3年以内) - 平成31年4月1日以降に申請した雇用関係助成金の不正受給に関与した役員がいる。
- 支給申請日の属する年度の前年度より前(※1)のいずれかの保険年度に労働保険料の滞納がある。
- 労働関係法令違反により送検処分を受けている(支給申請日の前日から起算して過去1年以内)。
- 暴力団又は暴力団員又はその関係者である。
- 事業主や役員が、破壊活動防止法第4条に規定する暴力主義的破壊活動を行った又は行う恐れがある団体等に属している。
- 倒産している。
- 不正受給を理由に支給を取り消された場合に労働局が事業所名を公開することに同意していない。
※1 「前年度の労働保険料滞納は許されるがその前はNG」という解釈で概ね問題ありません。
また、他の助成金との併給は原則できません。
別の助成金を受けている場合や申請を考えている場合は、都道府県の労働局・ハローワークに事前に確認してください。
支給適用条件
ではいよいよ、適用条件です。ここまで来たら最後まで完走しましょう!
休業の定義や不支給要件の条件と重複する内容はここでは省略します。
2020年5月26日現在
対象事業者 | ・新型コロナの影響を受ける事業主(全業種) ・雇用保険適用の事業主 |
支給対象期間 | 事業主が指定した日より1年間。※1 |
生産指標 (売上高や生産量) |
前年同月比(1ヶ月)で5%以上低下。※2 |
助成金対象の労働者 | ○雇用保険の被保険者でなくても可。 ○被保険者期間は問わない。 ×解雇予定・退職予定・退職勧奨に応じた人はその日以降は対象外 ×日雇労働被保険者は対象外 |
計画届 | 5月19日以降は、提出不要 |
支給限度日数 | 1年で100日・3年で150日。※3 但し、2020年4月1日~6月30日は限度日数に加算しない。 |
1年のクーリング期間 | 2020年1月24日以降の休業については撤廃 (対象期間満了から1年間空けるというルールは適用外) |
休業時の受給額 | 以下、いずれかの低いほう。
① 事業主が負担した休業手当 × 以下の助成率。※4 |
下記の注釈、非常に重要なので必ず読んでください。
※1 一定期間(1ヶ月 or 2ヶ月 or 3ヶ月)ごとに雇用調整を計画し、支給申請する必要があります。
※2 事業所設立から1年未満、または前年同月に稼働していなかった場合は令和2019年12月と比較。また、災害等の理由で前年同月が比較対象として不適当な場合は前々年同月と比較。
※3 支給日数は「お店を1日閉めたから休業は1日」や「休業させた人がいた日は1日」ということではありません。以下のように計算します。
<月の稼働日が20日・労働者が10人、うち5人が4日が休んだ場合>
5人が4日ずつ休んだので、休業したのは4日×5人で20人日。
労働者10人なので、1人あたりの平均は20人日÷10人=2日。
支給対象日数は2日となります。
※4 休業ではなく教育訓練を行った場合は賃金相当額 × 上記助成率となり、 さらに1人1日あたり中小: 2,400円、大企業:1,800円が加算されます。
※5 中小と大企業の定義は以下のとおりです。
※6 上限を15,000円に引き上げる方向の審議が行われていますが、5月26日現在正式決定はしていません。
画像出典:雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)
休業手当100%支給となる拡充策について
・対象日は4月8日までさかのぼります。
・支払上限額8,330円は変わりません。
拡充策1.60%を超える休業手当を支払っている場合、超えた部分の助成率を100%とする
画像出典:雇用調整助成金の更なる拡充について
これは解雇等をせずに休業手当を支払っている中小企業すべてが対象となります。
60%までの休業手当の助成率は変わりませんので、休業手当全体として見ると助成率は最大90%→94%への変更です。
拡充策2.一定条件を満たす場合、休業手当全体の助成率を100%とする
「拡充策1」を満たしているだけでなく、さらに以下の条件も満たす場合、助成率が100%となります。
こちらは、会社負担が0になります。
〇休業又は営業時間短縮の要請対象となっている施設の事業者であり、要請に協力して休業等を行っていること
〇以下のいずれかのに該当する休業手当を支払っていること
・労働者の休業に対して100%の休業手当を支払っていること
・上限額(8,330円)以上の休業手当を支払っていること(支払率60%以上である場合に限る)
申請手続きと必要書類
基本的には、
- 休業を決める
- 計画届を提出する
- 休業する
- 支給申請する
- 労働局の審査
- 支給決定
という流れですが、
申請期限は各「支給対象期間」の最終日の翌日から起算して2か月以内ですが、申請対象期間の初日が1/24~5/31までの申請期限は、特例により令和2年8月31日までとなります。
引用元:雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)
と規定されています。非常にわかりにくいですが、以下のように計算します。
<支給対象期間を2020年5月1日~6月15日の場合>
最終日は2020年6月15日。その翌日である6月16日から2か月となる2020年8月15日が本来の申請期限。
しかし、今回は特例により2020年8月31日となります。
必要書類
本来の雇用調整助成金の申請には計画届・支給申請の2種類の書類準備が必要ですが、今回は特例により計画届が不要となっています。
支給申請
画像出典:雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)
申請先
事業所の所在地を管轄する都道府県労働局またはハローワーク。
郵送での提出も可能です。
対象であれば、受給申請しましょう
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
おつかれさまでした……!拍手を贈ります!
自力で書類を揃えて提出するとなると気が遠くなる作業ですが、受給要件を満たしているのに申請しないのはもったいなさすぎる助成金です。スポットで外注すると支給総額の30%ほどの手数料(着手金は10万円程度)がかかりますが、1人1日8,330円ですから休業日数や労働者の人数が多ければ多いほど申請する意味が大きくなります。
なお、支給総額が少額であれば依頼を受けてもらえなかったり、完全な外注ではなくアドバイスをもらいながら自分で申請するスタイルになる可能性もあります。いずれにせよヒアリングはしてもらえますので、外注を考えているならまずは相談してみましょう。